日本商工会議所100周年 コメント
2022年創立100周年を迎えた日本商工会議所より、各商工会議所会頭へ未来に向けたメッセージの依頼がありました。題目は「30年後の未来に向けて、各地商工会議所および日本商工会議所が進むべき道、果たすべき役割」です。私の日本商工会議所が創立100周年を迎えた所感を書かせていただきました。
【30年後の各地の商工会議所】
今後の30年を展望する前に、過去30年を振り返ってみる必要があるように思えます。
1990年は、当時絶頂期にあった日本経済がバブル崩壊に伴うデフレ経済下の長期不況に陥り、以後日本の国際的地位が絶え間なく低下するという苦渋の30年でありました。
その間、欧米の経済は4,5倍の規模に成長し、又、中国などの新興国経済はそれを上回る成長を遂げる中、日本だけが2倍程度の成長に留まりました。つまり、そもそも日本が抱える問題は他の国とは同一でないということになります。
そのような状況下、奇しくも今日、世界はコロナ、ロシアのウクライナ侵攻と中国の台頭、民主的な社会体制、自由貿易、安全保障体制等が大きく揺らぐという事態を迎えています。
その中で、日本は確実な人口の減少と高齢化に加え社会インフラの老朽化などにより、地域社会、経済の衰退危機に直面しております。
このような芳しくない状況下で、AI、量子技術やデジタル化や脱カーボン化等の優位性が社会や産業の死命を制することになり、熾烈な生存競争が幕を開くことになりました。
このような状況をみると、各地の商工会議所がその会員の成長支援を行うために、夫々が各個に対応するという従来の体制では限界が見えており、むしろ各会議所が其々の特色や強みを生かし、或いは機能分担を強化し、それを各地の会議所の希望に応じ融通し合うという取り組みが不可欠となるのではないでしょうか。皆同様の問題意識を持っているはずですが、様々な制約に苦しんでいるのではないでしょうか。
勿論、各地の会員同士は競合関係にもあるでしょうし費用の問題もあるでしょうが、このような形によってこそ、今後人口が減少する地域への支援が可能になるのではないかと思う次第です。
【30年後の日本商工会議所】
このような状況下、日本商工会議所の果たすべき役割を考えてみたいと思います。
渋沢さんの明治時代は、西洋列強の脅威に対処するため何よりも経済、産業の近代化を進めなくてはならない時代でした。そして、敗戦後は疲弊した国土、産業を復興する為に皆懸命に死に物狂いで努力した時代でした。
高度経済成長期を迎え始めた1970年代は、国際化の進展に伴い国際人材の育成と産業の国際化に必死に頑張った時代であり、その成果が着実に現れた時代でした。そしてそこに商工会議所が果たした役割は決して少ないものであった筈がありません。
しかしこの30年は日本の成長は失われ、1990年のGDPの世界シェアはには米国の半分、14パーセント弱あった日本のシェアは2021年には5.7パーセントに低下し、更に人口の減少、高齢化が確実に日本の体力を蝕み、国力の低下はこのままでは避けることができません。つまり、今日本には第2の明治維新、戦後の復興が必要になっているのです。
人口の減少下国民の生活を守るためには、一人当たりのGDPを増やすより方法がないのではないかと思います。身の丈に合わせて生活水準を下げて、税の負担を増やし収支均衡を実現するという方針があるとすれば、それが国策として正しいとは思えません。仮にそれが避けられないとしても、その前にチャレンジしなければいけないことが沢山あるはずです。デジタル人材等の国際人材の育成と生産性の大幅な改革を進め、円安傾向が続くならそのメリットも積極的に取り入れる必要もあるでしょう。つまり変化にはチャンスが伴うものです。それを実践したのが、渋沢さんをはじめ我々の先人ではなかったのではないでしょうか。
各地に展開する商工会議所のネットワークを今こそ強化し、政府や大企業、そして他の経済団体には無い個性的で斬新な取り組みを行う必要があるのではないでしょうか。
些か抽象的な意見で申し訳ないのですが、会員と国民の将来がかかっているのですから、やれることはなんでもやるということではないでしょうか。
流山商工会議所 会頭 田口 佳子